子育てアイウエオ
社会福祉法人嬉泉が発行していた機関誌「子宝通信」に2011年6月から2014年8月にかけて連載されていた、石井哲夫による愛情あふれるエッセイです。 お楽しみください。
ア 愛情を考える
『子宝通信』創刊号(2011年6月1日発行)掲載
『子ども』ってうるさいし、分からず屋だし、自分勝手なのになぜかわいいのか。大人から見れば『まだ幼いから仕方ない』と許す気持ちが働くのだ。良い親の姿を見ると、これはものすごい。自分ですることはキチンとしているし、その上、忙しく気が立っているのに、子どもには仕方がないと受け入れている。本当にすばらしい人間の良さだと思ってしまう。『自分もこういう時があったのか』と不思議に思ってしまう。
イ 生きる力を考える
『子宝通信』第2号(2011年7月29日発行)掲載
わたしは、子どもを見て、その心の中を考えることが癖になってしまった。だから泣いている子を見ても『どんな言い分があるのかな』とか『どれだけ頑張るのかな』とか『気が変わるときはどんな時かな』などと考えてしまう。そして嫌なことが沢山あっても、『強く生き抜いて欲しい。』と思うようになってきた。
ウ 打ち込み子育て
『子宝通信』第3号(2011年9月28日発行)掲載
年をとってきたと自覚している私は、なぜかこの頃、過去において頑張ってきた時のかけ声や、軍歌のような勇ましい歌を歌って頑張っていることがあるのです。この事は、生きる力を強めることになっているのではないかと思っています。顧みると激しい生き方をしてきたものだと思っています。
エ 演技も必要な子育て
『子宝通信』第4号(2011年10月31日発行)掲載
子育てを常に真剣な人間関係だと思っている人が多いと思いますが、親がゆとりを持って、子どもに見える心の表現を演じることが多いと思います。『ママは本当に嬉しいよ』『パパは心配で夜も眠れないんだよ』などと、子どもの前で自分の心を表す演技ができていることが必要なことです。
オ 教えること
『子宝通信』第5号(2011年11月30日発行)掲載
子育てに“教えること”は極めて大切なことです。しかし難しいことはその教え方です。多くは、『何度同じことを言わせるんだ。お前は本当にだめな奴だ』となるので注意しなければなりません。これは、子どもの自尊心を傷つけることになるからです。大人が『自分は親から厳しいしつけを受けたので良くなった』と言いますが、叱られ続けて良くなった例はありません。
カ 神様のこと
『子宝通信』第6号(2012年1月30日発行)掲載
神様のことを子育てにおいて話すことは難しいと考える人が多いのですがなぜでしょう。この地球上の多くの国、或いは民族の間でいろいろな神様が信じられているのですが、我が国では、信仰の自由で、神様などに無関心な状況が多くみられています。
キ 気にいる子育て
『子宝通信』第7号(2012年1月30日発行)掲載
「気」という言葉は、多く使われている言葉です。元気な赤ちゃんから、気配りのよいお年寄りに至るまで、気は人間の一生で大切な心の働きと考えていいでしょう。元気、根気、気分、気心、気立て、気性、気持ち、本気、呑気、意気、勇気、気分、などという言葉をみると、気とは、人間の心の持ち方、とくにその人の心の働きの状態を捉える革新的な意味があるのではないかと思われます。
ク 訓練と子育て
『子宝通信』第8号(2012年3月31日発行)掲載
今回は訓練という言葉を選びました。訓練の“訓”は『さとし教える』という意味、“錬”は『絹糸を練り上げる』ということです。言葉としてはわかりますが、この言葉にはあまり良い感じがしません。
ケ 傾注(傾聴)という子育て
『子宝通信』第9号(2012年6月1日発行)掲載
保育士は傾聴を大事にしています。それは幼い子どもの思いや、何に困って騒いでいるのかを相手の立場に立ってできるだけ正確に理解するためです。
コ 言葉に関わる子育て
『子宝通信』第10号(2012年7月30日発行)掲載
子育てにおいての言葉の意義ということを考えてみましょう。子どもが生まれた時には、既にそばに親がいる状態です。しかし、初めは言葉を使うことができません。それでも親子は、感覚を働かせて、気持ちを通わせることが出来ています。
サ 差別をなくす子育て
『子宝通信』第11号(2012年8月30日発行)掲載
人間の命は大事なものです。どういうわけかこの地球に生物がいて、その中で最高知能の人間が人工的な環境を作ってしまったのです。長くても100年程度の個人の人生、平穏に生きていくためには社会が必要で、これは個人の人生をつなげていく人間集団なのです。
シ 信頼感を育てる
『子宝通信』第12号(2012年9月30日発行)掲載
今まで好意を持っていた人でも、その人のしている事で気分が悪くなることがあると、とたんに相手がどのようなことをしても、好感を取り戻せなくなることがあります。自分の子どもには、そうは出来ないと考えていましたが、この節は、我が子との関係の持てない親が増えてきました。
ス 素直について考える
『子宝通信』第13号(2012年12月7日発行)掲載
「この子は素直でいい子だよ」という言葉は聞きなれた常識的な言葉です。素直な子どもの行動は、「人の言うことに逆らわない」とか、「静かにしていなさい」と言われれば、動かなくなるとか、興味を持って遊んでいても、「もういい加減にして勉強しなさい」などと言われればその通りになることです。
セ 生活力を育てる
『子宝通信』第14号(2013年1月発行)掲載
よく、保育や教育関係者が生活習慣の自立とか、生活技術訓練という言葉を使い、スプーンや箸の使い方を繰り返し練習させることや、パンツなどの衣服の着替え方や、用便の後始末などという生活行動についての細かく指示してさせる生活指導マニュアルを作ることが良いと思う人がいます。
ソ 即興性を育てる
『子宝通信』第15号(2013年2月発行)掲載
よく『人間力』とか『行動力』とか『柔軟性』などと、人間として状況における適切な振る舞いは、瞬間、瞬間に動いていく人々の中で、自分が言いたいこと・したいことを内容、方法とも、豊かに、適切なものにしていく働きが求められているわけです。
タ 確かめかた
『子宝通信』第16号(2013年3月発行)掲載
大人は、子どもによく事実を確かめることが多いと思います。『ママのタオルを黙って使っているの』ぐらいはよくあることでしょうが、『これを壊したでしょう』となると「叱る」の方に気持ちが向いていますね。
チ 血のつながる子育て
『子宝通信』第17号(2012年6月1日発行)掲載
産みの親より育ての親ということわざがあります。確かにこの頃子育てが分からない親よりもベテランの保育士が上手に子育てをしてくれるようになりました。でもこれは必ずしも良いことではありません。
ツ 作るという心のはたらき
『子宝通信』第18号(2013年7月1日発行)掲載
ツクルという行為には、人間と他の動物と決定的に違う内容があります。共通することは、生活しやすくするために有効なものを作るということです。それは、自らの力で環境を変えていくということです。
テ 「手加減」が大事
『子宝通信』第19号(2013年8月1日発行)掲載
子育てで『テ』から始まることは良いことが沢山あります。手伝い、手際、手加減などとどんどん出てきますが、この『手』という字の意味はなかなか味わい深いものだと思っています。そこで、今回は手加減を考えることにしました。
ト 問い返す
『子宝通信』第20号(2013年9月3日発行)掲載
子どもと話をするときに、大人が子どもに問い返すことが起きます。例えば、4歳になったA子さんから「家のマルがね、クスンって言ったのよ。」と話しかけられたとします。これが忙しいママだと『猫だってくしゃみするんだよ。』と、にべもなく言い捨てて、それ以上取り合わないことが多いと思います。
ナ 馴染むということ
『子宝通信』第21号(2013年11月1日発行)掲載
日本語には面白い言葉があると思います。子育てについての理論にはあまり登場してきませんが、日常の自分の暮らしを改めて見直してみますと、朝起きてから夜眠るまでに、馴染んだ暮らし方が出来ていることが分かると思います。
ニ 似ているね
『子宝通信』第22号(2013年12月20日発行)掲載
親子が似ているのは、血のつながりからと思われています。これは、遺伝子の受け継ぎのもたらした素質的な働きと考えられますが、同時に日常の生活で一緒に暮らしている親子の交流も関係していることなのです。そういう原因はともかくとしても、一般に人間関係において『似ているね』という言葉は、お互いに親しみの感じを強める働きをもっています。
ヌ ぬくもりの意義
『子宝通信』第23号(2014年4月20日発行)掲載
「ぬくもり」という言葉は、漢字で書くと温もりと書きます。この「温」の字は、さんずい(水分が多いという意味)に、日、皿とか古くは、日の代わりに囚を書いたといいます。「皿の中に伏せられている」という「人々のふれあいの中に発し止まっている」という「温もり」こそ、私たちが一生涯で沢山経験したいことではないでしょうか。
ネ 根っこを考える(最終回)
『子宝通信』最終号(2014年8月発行)掲載
“根っこ”という言葉を聞くと、全国社会福祉協議会が発行している「保育の友」で1986年から2007年まで21年の長きにわたる連載を行った、村田保太郎さんの「保育の根っこにこだわろう」を思い出します。