嬉泉

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嬉泉の想

【保育】1歳児:子どもの発達に応じた柔軟な保育

【噛みつきが見られるMちゃんの様子】

5月ごろ、2歳の誕生日を迎えたMちゃんは、友だちに嚙みつくことや押し倒すことが多くなりました。言葉が未発達な1歳児は、とっさに噛みつくことがありますが、Mちゃんの場合は、噛みつきが見られる状況はさまざまで、子ども同士のやりとりの最中だけでなく、食事中や午睡中に隣にいた子を噛む、Mちゃんの横を通る子を押すこともあり、理由が分かりづらい場合も多くありました。3人きょうだいの末っ子であるMちゃんは、両親の子育てには余裕が感じられ、家庭状況は落ち着いている様子でした。母親は、保育所での噛みつきについては、「言葉で表現できるようになるまでは仕方ないですね」と、1歳児の発達にも理解があったのですが、度重なる噛みつきに母親は保育に対して疑問を感じている様子も窺えました。また、噛みつかれる子どもの保護者も、次第に「またですか」と表情が曇る保護者や、「子どもが、Mちゃんがそばに来ると怖がっています」と訴える保護者も現れ始めました。

【Mちゃんへの理解と発達に応じた柔軟な保育】

保育者は可能な限り個別に関わり、Mちゃんと担任の関係を深めていくこと、Mちゃんが好きな遊びに集中できるように環境を整えるなど、Mちゃんが安心して過ごせるように工夫を重ねました。また、この年度の1歳児グループは、5月生まれのMちゃんの後は、秋以降に誕生日を迎える子が多く、グループ内での月齢の差も大きかったのです。そのため担任は、食事や外出の支度など、Mちゃん以外の子どもの世話に追われて、先に支度を終えたMちゃんを待たせることが多くなっていました。それに対して、保育士や看護師、園長などが、1歳児グループに入り、担任と一緒にMちゃんのペースで移動や活動ができるように園全体で調整しました。

【保育所全体で協力しての保育】

2歳児グループでのMちゃんは、噛みつくこともなく、子ども達と楽しそうに遊ぶ姿があるため、1歳児と2歳児グループ合同での活動を増やしたところ、Mちゃんは2歳児グループで過ごすことを好むようになりました。保護者には説明して、Mちゃんが希望する時には2歳児グループで過ごし、戻りたい時は1歳児グループで過ごす生活がしばらく続きました。次第に、突発的な噛みつきが減っていき、担任と一緒に1歳児グループの女児とままごとをして遊ぶ姿が見られるようになり、Mちゃんに変化が現れ始めました。その間、園長や主任がMちゃんの母親や、他児の保護者の不安や不満を受け止め、また、Mちゃんの気持ちや、その気持ちを受けての関わりや取り組みを伝えることを継続していきました。その結果、噛みつきが減ったこともあり、Mちゃんや保育に対して、徐々に理解が見受けられるようになりました。

【まとめ】

本事例では、Mちゃんについてその背景を理解し、Mちゃんの気持ちを受け止めると共に、Mちゃんの発達段階に合わせた環境を整え、保育所全体で協力をしてグループにとらわれず柔軟な保育を実践しました。

Mちゃんは、発達の差がある他の子どもたちの行動に対する戸惑いや、分かりづらさからストレスを抱え、それが噛みつきとして表現されているのではないかと仮説を立て、2歳児グループとの活動を計画するなど、Mちゃんにとって過ごしやすい環境を考えました。周囲の子どもたちが生活や遊びの手本となって分かりやすい生活が送れるようになり、安心して過ごせるようになったのではないかと考えます。