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【コラム】PDCAサイクルと受容的交流の行程

社会福祉法人嬉泉 理事 沼倉実

現行の強度行動障害支援者養成研修でも、自閉症の特性理解の困難さを強調し、仮説検証を必須としています。具体的には、氷山モデルでの行動の背景の仮説立案とPDCAサイクルによる仮説検証を推奨しています。大まかに言うと、事前の情報収集とアセスメントをもとに氷山モデルで利用者の具体的な行動の背景を推察し、その推察から適切な支援(環境調整)を立案する。行った支援の効果を測り、課題を分析し、再度仮説を検証し・・・とPDCAサイクルで仮説検証しながら適切な支援を探すといった流れになります。

対して、受容的交流の4つの行程は、支援現場での日々の支援、支援者の対応の工夫での仮説検証に対応するもので、それはOOⅮA(ウーダ)ループという意思決定の手法に近いと考えられます。ウーダとは、Observe(オブザーブ:観察)、Orient(オリエント:方向付け)、Decide(ディサイド:決定)、Act(アクト:行動)という手順で意思決定して、それを短いスパンで繰り返し、ループ状に行動の適切性を検証しながら進んでいく手法です。

日常的な目の前の利用者にどう関わっていくのか、つまり、PDCAサイクルのDoの中での支援の仕方のプロセスになります。手順書があって、構造化のツールはあるのだけれど、手順書にないような行動が頻発するのが日常の生活の中での支援です。

その中で、支援者が自分の心の動き、関わりの仕方を意識し、支援者の関わりや存在・刺激に対する相手の反応を観察して、また、関わり方の方向性を決めて、関わっていく。自分の意思決定と行動を意識化することで、自分が相手の反応に流されている状態も自覚し、暴れている行動を抑えようと焦って相手の行動の背景や気持ちをあまり考えていないことも意識する。

それがダメなのではなく、意識化することを習慣化することで、観察から方向付けの見立ての段階での推察が明確に認識できるようになり、アセスメントで立てた仮説の根拠になる特性を想起することもできやすくなります。そうすることである程度一貫した仮説検証ができ、方向性の明確なループになっていきます。それをあるスパンで振り返って、PDCAのチェックやプランニングに役立てていくこともできます。

事前の情報収集やアセスメントをもちろん行うし、先輩支援員の支援を見てヒントももらう。しかしながら、支援者が利用者に対する時には常に孤独で、自身の見取りと見立てで関わっていかざるを得ない。その交流のさなかで、お互いの気持ちや考えを感受し、共有し、了解し合うためには、支援者は相手の内的な心理を感受し、理解すると同時に自身の内的心理を意識化することが求められます。

その了解性が相手との間で客観性や再現性を持つことで確かな支援関係ができ、さらなる交流(相互作用)によって、お互いに理解を深め、新たな関係や価値を共有していくことができるのです。

受容的交流を進める過程

自他不分離の心境から、相手と自分とともに自己認知・自己統制が進むように関わる(石井 2012)