(4)これからの支援
受容的交流の考え方は、本人の内的世界へ注目して、安心できる主体的生活への支援を行うことを目指している。いわゆる療育活動としては、本人の心理的特徴をとらえ、心の奥にある衝動や感覚、情緒、快感、不安、抵抗、トラウマ、こだわり、自己認知等々見取りながら、本人にわかるように伝え、共有すること。また、信頼関係を構築しながら共通の心理的世界を作り、社会につなぐ努力をすること。そのための環境調整としては、安心できる状況と周囲の適切な理解の獲得に努めることをすすめていくことにある。繰り返しになるが、それがライフサイクルのすべてにわたって必要なことが多く、一貫したとらえ方、関わりで育て、見守り、調整する支援が重要なのである。
支援のポイント④
社会資源とつなぐ
- 活動の幅を広げる、地域・社会に出る、外の人と交流
- 社会の通訳やガイドとしての役割
- 資源の開発、理解を求める、
支援のポイント⑤
支援ネットワークの形成
- 支援機関等へのコンサルテーション
- 本人支援のコーディネーション
- 緊急時の対応(避難所)としての機能
- 本人の対処能力の向上
今日、合理的配慮とか意思決定支援ということが障害者の差別解消のスタンダードに置かれようという動きがある。社会的障壁の除去という言葉もよく耳にするようになってきている。インクルーシブな社会の形成に題目上は国を挙げて目指している現在、療育の考え方も個人対個人や施設の中で等狭い部分で考えていては、本人の生活や活動が制限されてしまうことになりかねない。発達障害者支援法も改正され、より社会の側の変革を目指す方向性も示されている。これまでより更なるグローバルな視点で療育を考えることが望まれている。
これまで社会に対する提言が嬉泉の活動の中になかったわけではない。発達障害者支援センターでの活動や啓発活動など多くの事業を行っているといえる。しかしながら、いわゆる療育の現場で当事者と社会のつながりの中で、利用者が主体的に意思を決定し、その実現のために実践的なアプローチが十分にできていたかというと、まだまだの感はある。
いわゆる名人芸と揶揄される閉じられた世界に満足して広がりを求められてはいないのではないかということや、社会の無理解などのせいにして、そこから踏み出すことに手がついていないことはないかと反省をする。関係者等との間でやり取りができる技量を持ち、協力して支援を行う関係者に、説明、提案、実行、検証を本人のニーズにそって地域社会や地域資源含めた広い視点でのぞみ、利用者が「生活の主体者」として地域での暮らしを作ることが出来ていたのか再度見直す必要がある。
個別や施設内の療育で終結してしまう支援では、社会の中で生活をするとか、活動をするなどの利用者の意向に沿ったことにはなりにくいことは、これまでの長年にわたり療育を受けてきた利用者の声や様子からうかがい知ることである。家族、地域の住人、支援機関・支援者の支援力には、施設支援ではなかなか成しえないものが多くある。もちろんのこと、施設には家族や地域にない機能が多くあるので、施設を支援の核として、うまく周囲の資源を活用するように波紋を広げて利用者の世界も広がるように支援のコーディネートが成されるように活躍していけたらと考えている。
このことは、通所の支援ではもちろんのことであるが、より社会が狭くなりがちである入所の支援においてはこころして意識しておかなくてはならないことである。
インクルーシブな教育や社会を目指していくことが、障害を理由とした差別の解消の推進を合意した社会の基本的な方針になった今日、利用者のニーズも多様化し、社会資源も様々なものが増えてきている。広く社会資源、人、モノ、情報、制度、ネットワーク等々を構築・活用した、ますます広い観点での支援が展開されなければならない。
療育では、強度行動障害や支援困難な方の支援に関しては、入所施設や通所施設、児童発達支援センターが中心となって支援の組み立てを行い、環境調整や直接支援の工夫で生活基盤の安定を基本にした体制が必要であろう。他方、社会生活が可能な方の支援では、施設はネットワーク内の資源の一部として機能し、地域の資源をいかに活用して利用者の望む生活に近づけていくかということを核に展開していけるかを考えていく。
これらと同様に、本人の療育支援も様々な人や資源の活用や、困ったときの対処法、相談できる体制とそこにつながる意識づけなど、本人が生活の主体者として地域での生活をすすめていけるための力をつけることを目指していかなければならないと考える。
相談・地域支援では、療育の実践を踏まえた知見から、個別の事情から、地域社会の在り方、支援体制作り、教育との連携などミクロからマクロまで広く深い視点で、より社会に開けた形の支援を志向して利用者の自己実現に寄与していくことができるようにますます研鑽を積んでいかなくてはならない。
さらに、保育においても受容的交流の考え方は同様にある。保育所内のことのみに関わらず、家庭との連携はもちろんのこと、地域作り、地域支援、学校連携や場合によっては療育機関との連携、児童相談所、子ども家庭支援センターとの連携など、児童を取り巻く様々なところとの協力関係を持ち児童の最善の利益を図る機能を、保護者と並んで児童の最大の理解者としての立場で追及していきたいと考える。
石井は、幼少期より関わる子どもの成長にしたがって、ライフサイクルに応じた支援の必要性を、身をもって感じた。そして社会福祉法人嬉泉では比較的早期から着手し、ライフサイクルすべてに渡った支援が行えるように療育事業を展開してきている。乳幼児期の対応としての、保育所、児童発達支援センター、就学期の相談・療育、成人期の生活介護や就労支援、また児童期、成人期の入所支援やグループホーム、さらに手がけ始めている高齢期の支援と続いている。
それらの支援の基には「受容的交流」の人間観、支援観が一貫としてあり、嬉泉のアイデンティティとして継承し続けてきた。そしてこれからも、この考え方、思いを継承し社会福祉法人嬉泉の活動を発展させ、共生社会の実現に寄与していきたい。